ある企業の事例から始める。中国8,000人、全世界25,000人規模の組織である。
紙の図面は14個の書庫に収められていた。入社後、まず図面の検索方法を理解する必要があり、約1か月を要した。利用者側にも同じ学習負担がある。製品を選ぶには、低コスト、高負荷、食品グレードなど、多数の製品シリーズの特徴を理解する必要がある。理解していなければ、企業の選定ウェブサイトを使って目的の製品を探す方法さえ分からない。
ここから、いくつかの情報要件が見える。

AIによる2Dから3Dへの変換需要
会社の歴史が長く、以前の設計は大量の紙で保存されていた。参考になる記事もある。図面から3Dへの変換は、実測した範囲では信頼性が特に高くなく、速度も速くない。ただし一括変換では、利用者は速度をあまり重視しない。変換作業を一定程度減らすことは可能であり、将来的に技術者が既存の3Dモデルを直接再利用できる点に継続的な価値がある。
画像から3Dへの変換もある。多数の事例が公開されている。3Dプリント用途では有効な場合がある。図面と異なり、画像には寸法パラメータがないため、利用者の期待は高くなる。形状が概ね一致すればよい用途では、画像から3Dへの変換も成立する。製造業を利益のピラミッドと見なすなら、機械加工が頂点で、3Dプリントは下端に位置する。
常用寸法と公差
部品の形状と寸法が分かっていても、公差、プロセス、重要な加工工程、加工前の素材を確認するため、過去の図面を参照する必要がある。部品を先にダイカストで粗材化してコストを下げ、その後に再加工して精度を高めるケースもある。
重要になるのは公差の扱いである。SolidWorks MBDでは、公差を部品内に保持できる。当社製品では公差と部品が分離され、図面内でのみ関連付けられる。次の2点を検討する。
- 一意なデータ源。
- STEP242。
公差は、加工製品の品質を区別する最重要要素である。二つのねじ穴の間隔を±0.2、複数ねじ穴から部品端部までを±0.1、射出成型を0.05とするなど、公差には規則性がある。射出成型では、すべての成形業者が少なくとも3°の抜き勾配を求める。クロメート化成皮膜や陽極酸化皮膜の厚さも、記憶だけでは管理できない。
AIによるローカル知識ベース
AI用のローカル知識ベースは設計ツールとは直接関係しない。既存のオープンソース技術で十分であり、販売キットやノベルティとして提供する価値はある。
ウェブサイトでの製品選定は複雑であり、利用者が使えない場合がある。製品マニュアルを用意する方法もあるが、例示した日系企業の紙マニュアルはB5相当で、積み上げると1mを超える。利用者にマニュアル全体の理解を求めるコストは高すぎる。
AIは顧客Q&A、質問誘導、ローカル知識ベースで対応できる。いずれも成熟した技術である。機械設計製造分野では、3Dモデルや図面の検索、製品分類の特徴説明、製品シリーズの比較にも利用できる。
設計業務でAIに任せられること、任せられないこと
AIの導入事例が成熟している分野には、ITプログラミング、金融分析、Internet情報などがある。これらの成果物は、目に見えず触れられない仮想データである。
AIが作業するための二つの技術用語を整理する。
- Agent:入力と出力を持つブラックボックス。中間処理は未知でもよい。
- コンテキスト長:入力と出力の長さ。ここが重要である。
一つの業務を完了するには、複数のAgentを連結する必要がある。
仮想情報では、ブラックボックスを完全に許容できる。機械構造設計では、どの工程をブラックボックス化できるか。すなわち、あるコンポーネント内の部品、外観寸法、個別部品、質量、材質、電力、放熱などを把握せずに進められる工程はどの程度あるか。
Ø50H7(+0.025/0)を代表寸法として、1M Tokenのコンテキストに幾つの寸法を格納できるか、大規模モデルに試算させた。結果は次の通り。

ブラックボックスを一つのコンポーネント単位とすれば、設計に最も関係する要素は部品寸法である。幾つの寸法を格納できるかを把握すれば、幾つの部品を格納できるかを判断できる。AIに求める作業は設計であり、寸法は避けられない中心要素である。
最大に見積もって10万寸法とすると多く感じる。しかし1M Tokenのコンテキストは入力長であり、出力長ではない。AIから得られる設計出力が384k Token程度なら、10万寸法は約3万寸法まで割り引く必要がある。
軸径は穴の公差を決め、ドライバーの荷重は機械全体の重量を決める。制約条件が加わると、関係は寸法数のほぼ二乗で増える。3万寸法間の結合関係は1億を超える可能性があるため、平方根を取ると173.2050807568877となる。この計算は直感に基づく。10倍、さらに100倍に拡大した場合、100枚の図面に収められるか。
実際の機械製品では、寸法、公差、荷重、質量、材質、放熱、電力が相互に結合する。同じエンジンを東風のトラックとFerrariのスーパーカーの両方へ搭載することは不可能である。各ブラックボックスは他のコンポーネントと整合する必要があり、一つの変化が重心、放熱、積載能力、空間寸法へ影響する。仮想製品には、この物理的検証制約がない。

仮想産業ではAIを活用できる。成果物自体がデータであり、誤りを検証して作り直せる。十分な演算能力があれば、無限に自己検証と反復が可能である。
機械設計には、この方法が使えない。誤れば廃材になる。実際に加工して試験しなければ、正誤は分からない。

上記の仮定は、すでに直感と寛大な前提に基づいている。荒唐無稽な前提さえ満たせないなら、実情はさらに厳しい。では、どの機械設計がAIに置き換えられ、どの設計が置き換えられないのか。
AIに置き換わる設計、置き換わらない設計
私の判断は次の通り。
- 部品数と寸法数が少ない簡単な製品は、AIで設計できる。人間よりよい設計を出す可能性もある。
- 一つの変更が全体へ波及する複雑な製品は、AIでは設計できない。
理由1:AIの脳容量(コンテキスト長)では複数の簡単な製品を格納できない
仮想製品ではブラックボックス同士が無関係なので、異なるモデルへ分割できる。
複雑製品 ≠ 簡単製品 + 簡単製品 + 簡単製品。
理由2:物理的な試行錯誤を反復できない
技術は進歩しないのか。十分に大きな脳が不足しているだけではないか。AIは急速に発展している。当然、私も検討した。そこでAIへ、コンテキスト長を1M Tokenから10M Tokenへ拡張するのに何年必要か質問した。回答は、指数関数的な拡張難度を理由に5~8年とする報告を引用した。
コンテキスト長は、他のAI技術とは性質が異なる。2026年10月時点でLlama 4 Scoutは10Mとされているが、これは研究段階の実験室データである。最高水準の実験結果と商用利用可能な能力は別である。この結果でも上記の結論は変わらない。
設計でAIにできること
簡単な製品設計、操作インターフェース、オープンソースCAD、大規模モデルとの連携による製図は実現可能である。SolidWorksでは既に実装済みである。
複雑製品を簡単製品へ分解できるか。これはSWTDOのパラメータ化原理である。重要でない寸法を人手で除去し、重要な制約を決めるキーサイズだけを残す工程である。
既存製品の改造にAIを活用する価値は高い。異なる規格の複数製品を比較し、同じPassでノイズを除去し、異なる値を次の改造に必要な重要パラメータとして残せる。実装は見た目より簡単な可能性がある。
